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帝王切開の手術開始から1時間が経ちました。
頭の中で、いくつもの起こりうる最悪なパターンを想像し、それに対する心構えのようなものを作りながら、時間が過ぎていきます。
1時間10分ほどして、ストレッチャーに乗った奥様が運ばれてきました。
「大丈夫?」
「うん」
よかった、生きてるみたいだ。
2言だけ言葉を交わして、どこかに運ばれていく奥様。
はたして、赤ちゃんはどうなったのだろうと僕は考えています。
「赤ちゃんは現在処置中ですので、もうしばらくしたらお会いになれます」
「準備ができたらおよびしますので、しばらくお待ちください」
その言葉を聞いてからさらに1時間待つことに・・・。
奥様の容態を気にしつつも、
ひとり待合室で推理小説を読んでいました。
推理小説の中で起こる事件の時系列や、登場人物の背景が、まったく頭の中に入ってきません。
そして・・・。
帝王切開の手術開始から2時間が経ちました。
『赤ちゃんは、汚れた羊水が肺に入ってしまった可能性があります。現在処置中ですのでもうしばらくお待ちください」
スマホで調べると、胎便吸引症候群というもののようです。
軽度から重度のものまでいろんなケースがあるみたいですが、こういうときは決まって、一番悪いケースを想像してしまうものです。
僕は自分の赤ちゃんが仮死状態になってしまったのじゃないかとか、
呼吸困難で脳に障害が残ってしまうんじゃないかとか、
そんなことを延々と考えたりしていました。
たまに思い出したように推理小説を読むのですが、第二の殺人事件が起きていても、いまいち話の中に入っていけません。
そして・・・。
帝王切開の手術開始から3時間が経ちました。
もう、22時になるし、そろそろ帰った方がいいのかなと思っていると、
ひとりの看護婦さんがパタパタとやってきました。
「お待たせしました、新生児室にお入りください」
ようやく赤ちゃんに会うことができそうです。
手を洗って、消毒をして、新生児室の奥に入っていきます。
たくさんの新生児がスヤスヤと眠っています。
その奥に僕の奥様のネームプレートをつけた赤ちゃんがいました。
「すごい元気で、おっぱいをずっと探してるんですよ」
これが、僕の子供かと。
なんて小さいんだ。
目を大きく開いていて、たしかに何かを探してるようにも見えます。
看護婦さんにどうぞ抱いてくださいと言われて、
僕は初めて、自分の赤ちゃんを抱きました。
なんということでしょう。
とても可愛いのです。
よく電車の中とかで、赤ちゃんと目が合って、可愛いなあとは思っていたのですが、
自分の赤ちゃんの可愛さはまた別のものがありますね。
赤ちゃんに初めて会ったとき
それは、とても不思議な感じがしました。
もちろん、初めて会うのに、なんだか初めて会う感じがしないのです。
血のつながりがそうさせるのでしょうか。
いや、とても小くて、赤ちゃんのその可愛さが父性本能をくすぐり、
そう錯覚させてしまうだけかもしれません。
でも、3時間も最悪のケースばかり想像していた僕ですので、
こんなに何事もなく普通に我が子に会えて、とても幸せだなと、本当に思うのです。
まだいろんな検診を受けていないし、これからどうなるかわかりませんが、
とりあえず健康そうに見える赤ちゃんをみてとても安心しました。
僕は無宗教なのですが、神様にただ感謝です。
しかし、今日は長い1日でした。
思い返せば、朝の5時くらいに奥様に起こされて、
「陣痛かも〜痛い〜」と言われ、様子を見てから、病院に行って・・・。
だいぶ夜も遅くなってしまったけれど
さて・・・。
奥様のいない家に帰らないといけません。
とりあえず、明日もがんばって会社に行かないとな、と思いました。
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